電子書籍は印刷物を駆逐するのか
AmazonのKindleなどが台頭して、印刷・出版業界には「このままいけば、印刷物がなくなる」という説が、まことしやかにささやかれています。小説や漫画など、印刷物にしなくても電子書籍があれば、場所は取らないし、1つのデバイスに何千冊と収納できるし、メリットだらけ。
だから、印刷物はそのうち、歴史的役割を終えるのではないか。という説です。
この風説は、実は10年位(もっと前かな)にもささやかれたことがあります。
曰く、「Webが普及してくると、印刷物は無くなるんじゃないか」。当時、会社案内などの印刷物を作っているデザイナーや印刷会社は、会社案内がWeb化されていくことに、戦々恐々としたものです。
じゃあ、今印刷物としての会社案内は無くなってるの?
いえいえ、そんなことはありません。依然として、会社案内は印刷物として営業マンが日々使っています。
商品カタログもしかりです。
また、新聞の折込チラシも依然として無くなっていません。(新聞の購読部数が減少しているので、相対的に印刷の部数は減っていますが)
そう考えると、1つのメディアの台頭が、既存メディアを食いつぶすのではなく、メディアが用途によって多様化しているということが言えます。もちろん、アメリカのNewsweekのように、印刷物から完全撤退して、Webの電子版のみになるということもありますが、印刷物がこの世の中から消えて無くなるということは、どうやら無さそうです。
でも、印刷物の縮小は免れない・・・
印刷物が生き残るとは言っても、今までのようには行かないと思います。
メディアが多様化するということは、ユーザーが細分化されるということです。今まで、単行本の小説を読んでいた人が、Kindleの電子書籍にライフスタイルを切り替える、という事もあります。
もちろん、「印刷された文庫本のほうが、落ち着いて読める」という選択をする人もいます。
つまり、ユーザーのライフスタイルや嗜好によって、メディアに応じた細分化がなされるということです。
そうなると、印刷物というのは、どうも「分」が悪い。
なぜかというと、印刷・流通をするのに、非常にコストがかかるということです。
電子書籍の場合は、デジタルデータなので、複製はほとんど費用がかかりません。
配布するのも、同時多発的にユーザーの手元に届きます。
ほとんどコストのかからない電子書籍と、多大な費用がかかる印刷物。
現在は、電子書籍の値段は大きく下がってきていませんが、普及につれてどんどん値が下がってくるでしょう。
まして、Amazonは本気です。
Kindleからの利益を度外視して、電子書籍コンテンツの拡充に力を入れています。
つまり、誰もが電子書籍を手に取ることが出来る、プラットフォームを創りあげようとしています。
残念ながら、印刷業界には、このような戦略はありません。皆無と言っていいくらいに、戦略がありません。
あるのは、価格競争のみ。
まあ、これだけ成熟した市場なので、これ以上印刷物を増やす戦略が見当たらないのが事実ですが。
情報の速報性ではWebに太刀打ちできない。情報をコンパクトに、大量にまとめる力は、電子書籍に太刀打ちできない。
そうなると、印刷物に求められるのは、「読みやすさ」しか、ないのではないでしょうか。
Webで文字を読み続けると、すごく目が疲れます。
Kindleは非常に優れたデバイスで、目の疲れが軽減されますが、それでも印刷物よりも、目が疲れると思います。
やはり、読みやすさに関しては、印刷物のほうが優れていると思います。
でもこれって、今から新たに創造する価値ではないんですが。。。
この記事を書きながら、印刷の未来を考えると、なにやら暗澹たる気分になってきますが、個人的にはやはり印刷物のほうが落ち着くし、読みやすいんです。
ニーズによって、印刷が不要となるジャンルもあると思いますが、なんとか印刷物が将来も残ってくれることを、願わずにはいられません。